フェムテックは”本当に”女性を自由にするのか
「フェムテック」という言葉をご存知でしょうか。
「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」をかけあわせた造語で、女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる製品やサービスのことを指す言葉です。
ここ数年でフェムテック市場は急激に成長し、さまざまな製品やサービスが登場しています。
フェムテック市場の拡大によって、それまで覆い隠されていた女性の抱える健康問題にスポットライトが当てられることになり、「女性の健康」が個人の問題ではなく、社会全体で考えていかなければいけない問題なのだという空気が確実に生まれていると、個人的には実感しています。
それはとても喜ばしいことですし、私自身もフェムテック製品を使用し、多くの恩恵を受けています。
フェムテックは女性をさらに自由にする
生理ショーツとは、クロッチ(股にあたる部分)に特殊な吸水生地を使用することで経血を吸わせ、ナプキンを使用しなくても、それだけで生理期間を過ごすことができるというものです。
私は敏感肌で、生理用ナプキンで引き起こされるかぶれに悩まされていました。また、定期的に取り替えないといけない、ナプキンが少しでもズレると経血が洋服に染みてしまう可能性もあるなど、女性であれば誰しも一度は感じたことのあるであろう不便さにも辟易していました。
私が生理ショーツと出会ったときは、まだ日本ではさほど認知度は高くなく、日本のブランドも多くはありませんでした。
それから2年の間に、日本人女性にあわせて作られた生理ショーツが次々と開発、発売され、今ではフェムテック製品の中でも社会的認知度の高いもののひとつになっていると感じます。
実際、この2年の間で私が生理用ナプキンを買うことはほぼありませんでした。(旅行先で突然生理が来てしまった時に慌てて買ったくらいです)
また、ナプキンからの解放は予想をはるかに超えて快適で、もうナプキンを使う生活には戻れないかもしれないと、個人的に感じていますし、友人や家族など身近な人にも勧めてきました。
フェムテック製品の抱える現実
前述した通り、フェムテック市場の拡大はこれまで個人の問題だとされてきた女性特有の健康問題を社会問題として捉え直し、より良い方向に改善していこうという機運をもたらしていると思います。それ自体はとても素晴らしいことですし、市場が拡大・成長することでさらに良いプロダクトやサービスが生み出され、私たちにさらなる利便性をもたらしてくれるであろうことには希望も感じます。
実際、生理ショーツ以外にも、生理予測アプリやPMS(月経前症候群)を和らげるといわれるサプリ、妊活、更年期……と女性がこれまでひとりで抱え込んできた「女性ゆえに」ひき起こされる健康問題を解決、緩和させるための製品やサービスが次々とリリースされ、今後は5兆円規模にまで拡大するであろうと予測されています。
しかし、一度立ち止まってみたいのです。
生理ショーツは平均して1枚5000円ほど。(そういえば最近、GUが1枚1400円ほどで生理ショーツを発売したことが話題になりましたね)
月経カップは1000円〜4000円程度と幅はありますが、ナプキンからすると圧倒的に高価です。
PMS用のサプリは月6000円ほど。
生理予測アプリや妊活アプリなどは無料で利用できるものもありますが、より精緻に管理したい場合は月額1000円程度は課金しなければなりません。
月経カップは1000円〜4000円程度と幅はありますが、ナプキンからすると圧倒的に高価です。
PMS用のサプリは月6000円ほど。
生理予測アプリや妊活アプリなどは無料で利用できるものもありますが、より精緻に管理したい場合は月額1000円程度は課金しなければなりません。
これらのことから分かるように、フェムテック製品(サービス)にアクセスするためには、一定程度の経済的余裕がなければ難しいのです。(自分が経済的に豊かであると言いたい訳ではありません。念のため)
繰り返しますが、フェムテックは素晴らしい技術革新であり、私自身もその恩恵に与ってきました。ですから、その市場を否定する気はまったくありません。でも、
「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」のごとく、
「フェムテックにアクセスできないなら、これまでの製品を使えばいいじゃない」
という一言で片付けてしまっていいのでしょうか。
「生理の貧困」をフェムテックの”影”にしないために
先日の国際女性デーの少し前に「生理の貧困」が話題になりました。高校生以上の生徒・学生のうち、実に5人に1人が「金銭的理由で生理用品を買うのに苦労した」というアンケート結果から、日本でも「生理の貧困」と呼ばれる現実が多くの女性に襲いかかっていることが明らかにされました。
日本にも「生理の貧困」5人に1人の若者が「金銭的理由で生理用品を買うのに苦労した」 #みんなの生理 は日本における“生理の貧困”の実態を明らかにすべく、SNSで協力を呼びかけてオンラインアンケート調査を実施 minnanoseiri.wixsite.com
「生理用品」と聞くと生理用ナプキンだけを想像しがちですが、そもそも生理用ナプキンも1種類だけでは事足りず、昼用・夜用と揃える必要があります。またPMSや月経困難症の場合は治療薬の服用、そこまでいかずとも生理痛が酷い日には鎮痛剤を飲まなければ、学校や仕事に行くこともできない場合もあります。
仮に、生理が割と軽い方で1種類のナプキンだけで済んだとして、側から見れば「月数百円の捻出もできないの?」と思うかもしれません。
しかし、考えてみて欲しいのです。
もし自分が、今日、明日の食費で精一杯の状況だったら。
もし家族から経済的DVを受けていたら。
何とかやりくりしていた最中、コロナが原因で仕事が突然なくなったら。
もし家族から経済的DVを受けていたら。
何とかやりくりしていた最中、コロナが原因で仕事が突然なくなったら。
数百円のナプキンを今、この瞬間に購入する選択ができるでしょうか。
「化粧はするのに生理用品は買えない」といった記事も見かけました。働く女性に対して「化粧はマナー」を言い続けてきたのは一体誰でしょうか。
経済的に困難であることを隠したいからなんとか頑張って、周りにあわせてコスメや洋服を買い、笑顔を作りながら代用品で生理を乗り越えている、その人の心中はいかばかりでしょうか。
そのような人に対して「コスメを買うお金を生理用品に回せばいいのでは」と言うことは、果たして「正論」なのでしょうか。
生理に限って見れば、そもそも男性は、女性が生理用品に使っているお金を別のところに使うことができます。スタート地点ですでに非対称性があることも忘れてはならないことです。
フェムテック市場が急激に拡大し、事業参入する企業や事業者はこれからますます増えていくでしょう。ですが、それによって格差が再生産されることは決してあってはならないと思うのです。
女性の健康問題に寄り添いたい
女性の社会進出を阻む健康問題を解決したい
女性の社会進出を阻む健康問題を解決したい
そういったポリシーを持ってプロダクトの開発に取り組む企業が増えれば、女性特有の健康問題から解放される人は増えていくはずです。それは間違いのないことだと思います。
しかし、そこに「アクセスできる人」と「できない人」が生まれていることに自覚的になり、後者がフェムテック市場の「影」となってしまわないようにすることが、サービスを作る側、使う側、両者の責任なのではないでしょうか。
技術革新を手放しで喜ぶ前に
この生理の貧困もまさに、社会構造が生み出している負の側面だと感じます。
新しい技術は素晴らしい。それによって広がる未来がある。
でも、「今、まさに」困窮している人が同じ社会にいる。
でも、「今、まさに」困窮している人が同じ社会にいる。
新しい技術が生まれるとき、そこには必ず新しい倫理観が必要になります。技術革新を手放しで喜ぶことの危険性は、歴史から学ぶことができるでしょう。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、その倫理観こそ、分断をこれ以上広げ、格差を再生産させないためのストッパーとなりうると思うのです。
このnoteを書こうと決めた時、私は手放しで生理ショーツを勧めてきた自分を深く反省しました。そこにアクセスできない人にどれほど無自覚だったかを恥じました。
フェムテックと同じくらい、「生理用品の無償化」(まずは軽減税率の導入からでも)の議論と意見が活発になり、その現実が照らされるために、今私たちがすべきこととは?
フェムテックのせいで影になる人がいる。というのはとても残念なことです。この素晴らしい技術を社会全体で享受するためには、社会構造自体も変えていかなければならない。そのために、女性だけでなく、すべての人が連帯し、行動に変えていく必要があると強く思うのです。
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